徳永氏にその根源についてズバリ聞いてみた。「やっぱりね…チケットが高すぎるんだなぁ。今晩の演奏で…4,500円もしたら、夫婦で10,000円あっても食事すらできないでしょ。学生席なんて慣習もないしね」
若い世代が良いものに数多く触れておく機会というものに…確かにわが国は欠乏しているかも知れない。知らないから聴かないし、聴かれないから興業は成立しないという悪循環はある。「文化にお金を出す人(企業)はいるんだけどね。分かっている人は分かっていて…要はお金を出しやすいシステムの問題だね。税制が良くない」
「JTコンサートではね…一律3,000円にした。これだったら、夫婦そろって音楽聴いて…食事して帰って10,000円で済むじゃない」氏は昨年、東京にオープンしたJTアートホールで音楽監督を務めている。
「楽器だって高過ぎるよ…もはや音楽家には買えない代物なんだな。アメリカなんかでは楽器屋サンが企業に買い取らせて、優秀な若手演奏家を紹介して永久貸与させるようなコーディネイトの例もある」…確かにそいつは旨い手だ。再投資にしかお金を使えない…といわれる情報産業の新興のお金持ち達には、そうした煎じ薬の処方師が必要なのかも知れない。
かくいう徳永氏の“有言実行”ぶりには目を見張るものがある。北海道の池田町では1988年から毎年、夏の音楽キャンプを主宰。好評を博しているし、宮崎県でも今年3月から県に1億5,000万円の予算を計上させて10日間にわたる宮崎国際室内楽音楽祭をプロデュース。県の内外から延べ13,000人の動員を集めるなど、地域文化にもクラシック音楽界にも、新しいムーブメントをもたらしている当の張本人なのだ。
「『聴く人の心が豊かになる』とかいうことじゃなくて…世界一流の音楽家と一緒に演奏すること自体、ボクらもインスピレーションを受けられるんだ」